ホームマーケット市川レポート 経済・相場のここに注目米財務省は長期国債の買い戻し拡大へ~市場への影響について考える

2026年8月20日

三井住友DSアセットマネジメント
チーフマーケットストラテジスト 市川 雅浩

【市川レポート】米財務省は長期国債の買い戻し拡大へ~市場への影響について考える

●米財務省は長期国債市場の流動性を高めることを目的とし長期国債の買い戻し枠拡大を決定。
●狙いは国債利回りの上昇圧力抑制か、19日の米市場は長期金利低下、株高、ドル安の反応に。
●米国債利回りの上昇一服は一時的となる可能性もあり日本では日銀と政府自身の対応が重要。

米財務省は長期国債市場の流動性を高めることを目的とし長期国債の買い戻し枠拡大を決定

米財務省は8月19日、長期国債の買い戻し枠について、1回当たりの上限を従来の20億ドルから少なくとも40億ドルへ拡大すると発表しました。対象は10~20年、20~30年の国債で、9月9日から11月4日まで実施します。背景には、既存の長期国債買い戻しに市場参加者が積極的に応じていることがあり、今回の決定は、長期国債市場の流動性をさらに高めることを目的としています。


長期国債の買い戻しは、国債買い戻し制度のもとで行われます。この制度は、米財務省が市場で流通している既発の米国債を定期的に買い戻す仕組みであり、発行から時間が経過し、取引量が減った「オフ・ザ・ラン銘柄」を買い戻すことで、需給の偏りを緩和し、市場の流動性や取引の円滑さを高めることを主眼としています。買い戻しは、金融緩和を意図するものではなく、米財務省による国債管理政策の一環として実施されます。

狙いは国債利回りの上昇圧力抑制か、19日の米市場は長期金利低下、株高、ドル安の反応に

このところ米国債市場では、対イラン戦争での戦費拡大などによる財政悪化や、中東情勢悪化に起因する原油高とインフレへの警戒などから、長期国債や超長期国債の価格が下落傾向にありました。8月18日には、30年国債利回りが一時5.33%と2007年以来の高水準をつけています。そのため、今回の財務省の決定は、長期国債市場の流動性改善を通じ、国債利回りの上昇圧力を和らげる狙いがあるように思われます。


8月19日の米国債市場では、長期、超長期国債の利回りが顕著に低下し、30年国債利回りは前日比約9ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低い5.19%水準で取引を終えました(図表1)。株式市場では、長期金利上昇への警戒が和らいだことで、ダウ工業株30種平均などの主要株価指数は小幅に上昇しました。一方、為替市場では、長期金利の低下を受けて米ドルが主要33通貨のうち28通貨に対して下落し、ほぼ全面安となりました。

米国債利回りの上昇一服は一時的となる可能性もあり日本では日銀と政府自身の対応が重要

今回の決定は、米国の長期国債の利回り上昇圧力を緩和する効果が期待されますが、財政赤字など根本的な需給悪化を解消する措置ではなく、効果は一時的となることも考えられます。また、8月19日の米国株式市場では、米オープンAIの四半期売上高が米アンソロピックを下回ったとの報道などで半導体関連株が総じて下落し(図表2)、長期金利の低下が、必ずしも半導体関連株の上昇につながるとは限らないように思われます。


日本市場への影響を考えた場合、米長期金利上昇の一服は、日本の国債利回り上昇や、ドル高・円安の抑制要因とみていますが、より重要なのは、日銀が物価上振れ回避のために適切なタイミングで利上げを行い、政府が財政規律に配慮することと考えます。日本株にとって長期金利の安定は1つの好材料ですが、人工知能(AI)・半導体関連株のやや不安定な動きが続いており、今しばらくボラティリティ(変動率)の高さが残ると予想されます。


※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。