ホームマーケット市川レポート 経済・相場のここに注目米財務省による長期国債買い戻しとFRBによる量的緩和の相違点

2026年8月27日

三井住友DSアセットマネジメント
チーフマーケットストラテジスト 市川 雅浩

【市川レポート】米財務省による長期国債買い戻しとFRBによる量的緩和の相違点

●米財務省の国債買い戻しとFRBの量的緩和はその目的や市場への影響という点で大きく異なる。
●国債購入額はQEが圧倒的に大きく、FRBのバランスシートへの影響ではQEが規模の拡大要因に。
●国債買い戻しに、利回り上昇の抑制効果を期待することは難しく、財政赤字の削減努力が必要。

米財務省の国債買い戻しとFRBの量的緩和はその目的や市場への影響という点で大きく異なる

今回のレポートでは、米財務省による長期国債の買い戻しと、米連邦準備制度理事会(FRB)による量的緩和(QE)との相違点について考えます。いずれも市場から米国債を購入する点では共通していますが、政策の目的や市場への影響は大きく異なります。前者は国債市場の流動性や機能の改善を主な目的とする「国債管理政策」であるのに対し、後者は金融ショックなどの発生時に大量の流動性を市場に供給する「非伝統的金融政策」です。


また、購入対象にも違いがあります。米財務省による買い戻しは、発行から時間が経過し、取引量が減った「オフ・ザ・ラン銘柄」を対象とし、既発債市場の流動性改善を図ります。一方、FRBによるQEは、オフ・ザ・ラン銘柄に限らず、幅広い国債を購入対象とします。なお、過去のQEでは、米国債だけでなく、住宅ローン担保証券(MBS)や政府機関債も購入されました。

国債購入額はQEが圧倒的に大きく、FRBのバランスシートへの影響ではQEが規模の拡大要因に

購入規模については、QEの方が圧倒的に大きいという違いがあります。米財務省の買い戻しは、1回当たりの上限が20億ドル(9月9日から11月4日までは40億ドルに拡大)と、比較的小規模なオペレーションが中心です。これに対し、過去のQEでは、米国債だけでも数千億ドル規模の購入が行われ、MBSと政府機関債を含めれば、総額が1兆ドルを超えるケースもありました。


FRBのバランスシートへの影響も異なります(図表1)。米財務省が国債を買い戻す原資を短期債(Tビル)の新規発行で賄う場合、バランスシート全体の規模は基本的に変わりません。なお、米CNBCは8月24日、「米財務省一般勘定(TGA)」が買い戻しの原資となる可能性を報じましたが、この場合でも同じです。一方、QEではFRB自身が国債を購入するため、資産と負債がともに増加し、バランスシートの規模は拡大します。

国債買い戻しに、利回り上昇の抑制効果を期待することは難しく、財政赤字の削減努力が必要

準備預金への影響は、米財務省が買い戻しの原資をどのように賄うかで異なります(図表1)。Tビルの新規発行で賄う場合、新規発行時に準備預金が減少し、国債の買い戻し時に増加するため、準備預金の残高はおおむね不変です。一方、TGA残高を純粋に取り崩して国債を買い戻せば、準備預金残高は増加します。これに対し、QEでは、FRBの国債購入代金が準備預金に入金されるため、準備預金残高は増加します。


以上の相違点をまとめたものが図表2です。米財務省による長期国債の買い戻しは国債管理政策であって金融政策ではないため、利回り上昇の抑制効果を期待することは難しいと思われます。TGA残高(8月19日時点で約9,400億ドル)を原資にしても、TGAが本来、職員の給与支払いなど日々の政府運営に使用されるものである以上、限界があります。利回り上昇の抑制には、やはり財政赤字の削減に努めることが必要と考えます。