ホームマーケットマクロビュー政府の成長戦略は日本株をどれくらい押し上げるのか?~奏功すれば日経平均株価は2031年に10万円突破も~

政府の成長戦略は日本株をどれくらい押し上げるのか?~奏功すれば日経平均株価は2031年に10万円突破も~

2026年4月20日

● 足元の日経平均株価の反発は、中東情勢の短期収束期待に加え、ハイテクセクターの強さを背景とした良好なファンダメンタルズに裏付けられている。


● 中長期的には、デフレから完全脱却し、2%インフレが定着すると(ベースラインシナリオ。名目トレンド成長率を2.6%と想定)、日経平均株価は2033年に10万円を突破すると試算される。


● 政府の成長戦略(官民投資ロードマップ)の経済効果を産業連関表を用いて試算すると、目標の半分の経済効果が実現すると仮定しても、10年間の名目トレンド成長率を年率0.42ポイント押し上げる効果が見込まれる。


● 成長戦略が奏功する過程で、政策への信認向上によりリスクプレミアムが低下し、PERも切り上がれば、日経平均の10万円到達時期は2031年へと、ベースライン対比で2年前倒しされる計算となる。

足元の株価反発の底流には経済ファンダメンタルズの強さ

米国とイランの戦闘終結への期待が高まる中、原油価格は一頃と比べ大きく低下し、日経平均株価は4月16日にはイラン紛争前の水準を一旦回復した。筆者は、3月18日付マクロビュー『原油価格を踏まえた日本株のシナリオ分析』で、楽観(短期収束)、リスク(原油価格高騰長期化)、テール(供給制約)の三つのシナリオ別に日本株の見方を示した。足元の株価の回復は、中東情勢が短期収束する楽観シナリオを織り込みにいく動きに見えるが、仮に原油価格が平均80ドル程度で推移しても、日本企業の業績には▲2.5ポイント程度の下押し圧力が掛かる。日経平均株価が紛争前の水準を回復したことに関しては、期待先行の印象もあるだろう(図表1、2)。


図表1 :米国のイラン紛争前後のエネルギー価格の推移 図表2 :米国のイラン紛争前後の株価の推移


ただ、株価の反発には、良好なファンダメンタルズも関係しているというのが筆者の認識である。3月3日付マクロビュー『株高はいつまで続くのか? ~景気サイクルは株価を後押し~』で、筆者は、当社独自の景気サイクルモデルである「貿易モメンタム」の好調を背景に、中東リスクが早期に収束すれば、ファンダメンタルズはリスク資産にとって追い風であると述べたが、そこから2ヶ月弱を経て、足元で貿易モメンタムは一段と勢いを増している。セクター別では、資本財セクターの持ち直しも続いているが、特にハイテクセクターの勢いは極めて強い(図表3、4)。それゆえ、日本株で言えば、TOPIXと比べて、ハイテク銘柄のウェイトの大きい日経平均の方が戻りが早いし、米株ではS&P500よりNASDAQの回復の方が力強い(図表2)。ハイテクセクターの集積する韓国の株価指数であるKOSPI、台湾の加権指数も戻りが早い。


ハイテクセクターをけん引するAI関連需要の強い状況がいつまで続くかは未知数で、この好調が未来永劫続くわけではないだろう。それでも、少なくとも足元の日経平均株価の回復は、ファンダメンタルズの裏付けを伴っているというのが筆者の解釈である。


図表3:貿易モメンタムと株価(MSCI World) 図表4:セクター別モメンタム

中東リスク後の日本株の焦点は政府の成長戦略

前置きが長くなったが、ここから本題に入る。中東問題が早期に収束すれば、日本株に関しては、投資家の関心はマクロ面では政府の成長戦略に移っていくだろう。それでは、日本株の先行きを占う上で、政府の成長戦略にどの程度期待して良いのだろうか。以下、やや粗い議論・分析を含んでいるとは思うが、頭の体操として、成長戦略の日本株への定量的な影響に関する接近を試みた。


日本株の中長期的なシナリオの整理

まず、成長戦略の定量的な影響を論じる前に、トップダウンからの日本株の中長期的なシナリオを整理する。なお、以下では将来の日経平均の具体的な数値に言及しているが、筆者の簡易的なシミュレーションによる試算値であり、当社のハウスビューではないことを予め断っておく。


ベースラインの2%インフレ定着シナリオで日経平均株価は2033年に10万円突破

筆者の日本経済についてのベースラインシナリオは、0%台後半の潜在成長率が続く下で、デフレから完全に脱却し、日銀の目標である2%インフレが定着するというものである。潜在成長率を0.6%とすると、名目のトレンド成長率は2.6%と近似できる(図表5)。


筆者の試算では、図表6の注記の通り、グローバル要因等も加味すると、日本の名目GDPの1%の変化に対するTOPIXのEPSの弾性値は3.3であるため(図表6)、名目2.6%成長が続くもとでは、TOPIXのEPS成長率のトレンドは8.6%になる。TOPIXのEPS成長率がトレンド並みで推移、2%インフレ定着によりPERが現行の16倍程度から17倍に切り上がると想定し、NT倍率を15倍と置いて、先行きの日経平均株価を計算すると、株価は2032年に98,752円と10万円に接近し、2033年に107,224円と10万円を突破する。


図表5:日本の潜在成長率(日銀推計) 図表6:TOPIXの12ヶ月先予想EPS成長率と名目成長率(暦年)


もちろん、経済は常にトレンド成長率に沿っては動かないし、EPS成長率は為替や金利変動などによっても左右されるが、頭の体操をする上で、一つの目安にはなるだろう。なお、株価の中長期分析にあたっては、名目GDPなどの成長要因に加え、長期金利を含む割引率も重要であり、名目成長(G)と金利(R)の関係、いわゆる「G-R」の検討も必要になる。市場では、「G>R」の状況がリスク資産の追い風となると考えられており、図表7は、OECD加盟国のうち名目成長率が長期金利を上回る国の割合と、グローバル株価(MSCI World)の推移を比較したものであるが、両者が概ね連動していることが確認できる。なお、本稿のシナリオ分析では、GとRの関係を、PERを用いてインプリシットに近似している。



図表7:OECD加盟国のうち「名目成長率>長期金利」の国の割合(%)と株価

デフレ脱却でもインフレが1%台半ばにとどまれば、日経平均の10万円到達は3年遅れ

デフレからの脱却には成功するが、インフレが1%台半ばにとどまった場合について、同様に一定の前提を置いた上で、先行きの日経平均株価を試算すると、10万円到達は2036年になる。また、デフレ脱却に成功しても、インフレに上振れ圧力が掛かり、日銀がインフレ安定のために引き締め的な金融政策を余儀なくされる金利上昇シナリオでは、日経平均株価の10万円到達は2035年と試算される。いずれも日経平均の10万円到達はベースラインシナリオから数年単位で遅れる計算になる。また、考えたくはないが、万が一、日本経済がデフレに後戻りした場合、日経平均株価は長期にわたって低迷することになる(図表8)。


図表8:中長期の日本株のシナリオ

先行して検討を進めている主要な製品・技術等の官民投資ロードマップ素案が発表

さて、政府の成長戦略については、3月10日の日本成長戦略会議で、政府の掲げる戦略17分野の中で「先行して検討を進めている主要な製品・技術等の官民投資ロードマップ素案」が示された。フィジカルAIや半導体など、27の製品・技術等が具体的に取り上げられ、一部については、2030年や2040年などの具体的な売上高の目標が提示されている(図表9)。今後、日本成長戦略会議で、具体的な経済効果の試算ならびに、目標達成に必要な投資額や時期の詳細が議論され、年央をめどに政府の成長戦略として取りまとめられた上で、今年度の補正予算、あるいは来年度当初予算において、場合によっては複数年度予算という形で、予算手当てが行われると見られる。


図表9:先行して検討を進めている主要な製品・技術等の官民投資ロードマップ素案


経済効果については日本成長戦略会議から示される見通しだが、本稿では、それが明らかになる前に、現時点までの情報をもとに、政府の成長戦略の経済効果を暫定的に試算した。具体的には、①売上目標が示されている製品・技術等について、目標売上高を10年後の2035年に時間軸を揃えた上で(製品・技術等でバラバラのため、原則、年平均成長率で補完し、できないものは線形補完)、②足元の売上高と目標売上高の差分だけ新規需要が発生すると想定し、③産業連関表を用い、経済波及効果をGDPに対応する付加価値に引き直して試算した。


詳細は図表10の通りだが、日本成長戦略会議の提示した目標売上高が完全に達成された場合、2035年時点で71.7兆円の追加的な付加価値が発生し、名目GDPは8.4ポイント押し上げられる計算になる。年率の成長率に換算すると、この期間のトレンド成長率は年率0.83ポイント上乗せされる。もっとも、産業連関表による分析は、投入係数等の経済構造が不変であることに加え、相対価格の変化を内生的には織り込まないという強い仮定に基づいている(名目GDPへの読み替えは、物価が概ね均等に波及するとの前提に立つ)。政府の成長戦略目標が完全に達成されるという見積もりも非常に強い仮定かつ楽観的かもしれない。また、そもそも成長戦略による支援がなくてもオーガニックに成長が期待できる製品・技術等もあると見られる。そのため、上記の経済効果は割り引いてみる必要があるが、目標の半分の経済効果が実現すると仮定しても、この間のトレンド成長率の押し上げ効果は年率0.42ポイントと計算される。足元の日本の潜在成長率が0.6%と推計されていることを踏まえると、成功の果実は小さくない。


図表10:政府の成長戦略の経済効果(成長戦略が想定通りの結果を生み出した場合の10年後の経済への押し上げ効果)

成長戦略が奏功した場合、日経平均株価の10万円到達は2年前倒し

政府の成長戦略が奏功し、2%インフレ定着のベースラインシナリオに対して、0.4ポイントのトレンド成長率の押し上げが加わると、名目のトレンド成長率は3.0%となり、TOPIXのEPS成長率のトレンドは9.9%と計算される。


成長戦略の奏功による政策への信認向上でリスクプレミアムが低下し、PERも17倍から18倍に切り上がると想定した上で、日経平均株価の先行きを試算すると(NT倍率は15倍で据え置き)、2030年に94,212円、2031年に103,539円となり、2031年に10万円を突破する計算となる。10万円突破の時期は、ベースラインシナリオと比べて、2年前倒しされる。2035年の株価の水準を比較すると、成長戦略が奏功した場合は151,041円となり、ベースラインシナリオの126,413円を19%上回る(図表11、12)。


図表11:シナリオ別の日経平均株価の試算値 図表12:シナリオ別の日経平均株価の試算値(2025年末基準)



シニアマクロストラテジスト
渡邊 誠